
今回は、ドイツでの生活を始めたばかりの頃に感じた孤独と、そこから自分を救ってくれた「テニス」の存在について、少し綴ってみようと思います。
こんな方におすすめ
- 海外生活に憧れている方
- 自分の趣味を探している方
- 海外在住で孤独感を抱えている方
この記事が参考になれば嬉しいです。
目次
寒い街に一人で降り立った冬
2023年1月。雪が舞う寒空の下、私のドイツ生活はスタートしました。
憧れのヨーロッパでの新生活にワクワクしていた気持ちもありましたが、現実は思った以上に厳しいものでした。
本来であればすぐに仕事が始まる予定でしたが、まさかの職場が「工事中」。
ドイツあるあるの「のんびり進行」で、職場が完成したのはなんと半年後。
つまり、ドイツに来てから半年間、私は無職で、寒く、言葉も通じず、知り合いもいないという状況で、まさに試される日々を過ごすことになります。
貯金は減っていくばかり。
ヨーロッパの冬は東京とは比べ物にならないほど寒く、部屋に閉じこもりがち。
ドイツ語も話せず、買い物一つにも神経を使う。
海外生活って楽しいだけじゃないんだなと、痛感しました。
スーツケースにあった、ひとつのラケット
そんなある日、スーツケースの中に入っていたテニスラケットが目に留まりました。
日本から何となく持ってきていたもので、「そういえば、昔は毎日やってたな…」と懐かしい気持ちに。
どうせ仕事もなく毎日暇なので、何かしようと思い、「シュトゥットガルト 日本人 テニス」と検索。
そこで見つけたのが、日本人が活動しているテニスサークルの方のブログでした。
ダメもとで連絡してみたところ、すぐに返事が返ってきて、次の週末には練習に参加させてもらえることになったのです。
テニスが戻ってきた日
久しぶりのテニス。
しかも日本語が通じる環境でのプレー。
それだけで、胸の中にあった重たい空気が少しずつ溶けていくのを感じました。
初対面の人たちばかりでしたが、「テニス」という共通言語があるだけで、自然と会話が生まれ、笑顔になれました。
その日から、週末のテニスが私の生活の中心になっていきました。
仲間と出会い、自信を取り戻す
日本人テニスサークルでの練習の傍ら、サークルの活動場所でもあった「Musberg」のクラブチームにも参加するようになり、そこからまた新しい世界が広がっていきました。
ドイツのクラブは団体戦や個人ランキングなどのアマチュア制度がとても充実していて、趣味でも本気で楽しめる環境があります。
言葉はまだうまく話せなかったけれど、プレーで少しずつ認められ、試合にも出させてもらえるようになり…。
そして転機となったのが、クラブ内で行われた「クラブチャンピオンシップ」での優勝でした。
この勝利をきっかけに、クラブのメンバーから名前を覚えられ、あいさつのトーンが変わり、以前は冷たかった年配の方々とも笑顔で話せるようになりました。
「認められる」って、こんなにも人間関係を変えるものなんだと実感しました。
学生との会話から気づいたこと
私が働いている職場には日本から留学に来ている学生も多くいるのですが、あるとき学生時代に野球を本気でやっていて、甲子園出場経験もある方がアルバイトとして入ってきました。
頭の回転も早く、礼儀正しく、会話もとても楽しい学生さんで、私自身もすぐに打ち解けていきました。
彼は「海外で生活してみたい」という純粋な動機でドイツに留学に来ていたそうで、大学とバイトを両立しながら日々奮闘していたようです。
でも、そんな彼も最終的には「日本で就職活動をする」という決断をし、わずか半年も経たないうちに日本へ帰国してしまいました。
そんな彼と帰国前に話した内容が今でも印象に残っています。
「学校とバイトだけの毎日だと、やっぱり孤独を感じてしまうんですよね。日本のほうが楽しいなって思っちゃって…。」
彼は元々野球が大好きで、学生時代には本気で取り組んでいました。
でもドイツでは、野球というスポーツはマイナーで、気軽にできる環境も整っていない。
だからこそ、彼が心から楽しめる「軸」が日常に存在しなかったのだろうなと、話を聞いていて感じました。
一方で、私の場合はテニスという「趣味」であり「武器」を持っていて、ドイツではメジャーなスポーツだった。
そんなテニスを通じて人と繋がれたからこそ、海外生活の中でも自分を見失わずに済んだのかもしれません。
このエピソードから学んだことは、「自分の好きなことを、どこででもできる環境をつくることの大切さ」です。
趣味はただの「楽しみ」ではなく、時には生きる力も与えてくれる。
海外生活の孤独は、決して特別なことではありません。
でもその中で、自分らしくいられる時間や仲間がいるかどうかで、その先の風景はまったく違ってくるのだと考えています。
テニスがくれた自分の軸と武器
気が付けば、今の私は仕事でもなく、語学でもなく、テニスでつながった人たちの中で一番自然体でいられるようになっています。
周りには高収入な仕事に就くドイツ人の仲間もたくさんいます。
ドイツらしくポルシェのオープンカーに乗っていたり、ベンツを5台も持っているチームメンバーも。
でも、私には「シングルス1としてチームに勝利を届ける」という自分の役割がある。
自分を他人と比べるのではなく、自分の武器で、自分の存在を認められる場所を持てたことが、私の海外生活の中で一番の支えになっています。
そして今、自分と同じように「テニスでつながる仲間」を求める人たちと、もっと広く深く繋がれるような場所を作っていきたいと思うようになりました。
それが「Team Nexus(チーム ネクサス)」という新しい挑戦の始まりです。
テニスが広げてくれた「つながり」の未来
Team Nexusは、ヨーロッパで本気でテニスを楽しむ日本人をつなげるテニスチームです。
チーム名の由来は「繋がり」を意味するNexusから取っており、メンバー同士の深い絆や、ヨーロッパ中の日本人を結ぶコミュニティの象徴になればいいなという意味が込められています。
年齢も国も違うけれど、「試合を楽しむ」「練習で追い込む」「合宿で汗を流す」「そして練習後はビールで乾杯をする」そんな想いが共通している仲間を集めていきたいと思っています。
きっかけは、たった1本のラケットでした。
でもそこから、テニスは私の生活を変え、今では誰かの生活を変える「場」をつくる側へと変化していきました。
ただ孤独を紛らわせるだけではなく、テニスを通じて人生をもっと豊かにしていけるコミュニティを、このヨーロッパで広げていけたらと思っています。
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孤独を感じているあなたへ
慣れない海外生活で孤独を感じる瞬間は、決して珍しいことではなく誰しも起こりうるものだと思います。
誰も知り合いがいない、言葉も十分に伝わらない、自分の居場所が見つからない——そんな時に、自分の心を少しでも支えてくれる「軸」や「好きなこと」があるかどうかが、大きな分かれ道になると私は考えています。
私の場合、それがテニスでした。
テニスという共通言語があったからこそ、人とつながり、自信を取り戻すことができた。そして今では、そのつながりを広げる活動にまで挑戦できています。
どんなに不安な状況でも、自分の「好き」や「得意」があれば、そこから道が開けてくるはずです。
もし今、孤独を感じている人がいたら、ぜひ一度、自分の好きなことに立ち返ってみてください。
それが、海外生活を楽しむ第一歩になるかもしれません。