ドイツでテニスやスポーツを続けていると、避けられないのが怪我や身体の不調です。

日本では当たり前のように整形外科に行き、保険証を出して治療を受ける流れですが、ドイツではシステムが異なり、最初は戸惑うことも多いかと思います。
この記事では、ドイツの医療制度やスポーツ保険の仕組みを整理しながら、テニスで怪我をしたときにどう動けばよいのかを紹介していきます。
目次
ドイツの医療制度の基本
ドイツでは、大きく分けて「公的医療保険(GKV)」と「私的医療保険(PKV)」の二種類があります。
多くの人は雇用を通じて公的医療保険に加入しており、基本的な医療費はほとんど自己負担なく受けられます。(BARMARやAOKなど)
一方で、個人事業主や一定の条件を満たす人は私的保険を選ぶことも可能で、診察予約が取りやすかったり、サービスが手厚かったりとメリットもあります。
医療機関を受診する際は、まず「Hausarzt(家庭医/かかりつけ医)」に行き、必要に応じて整形外科などの専門医(Facharzt)への紹介状をもらいます。
テニス肘や腰痛などスポーツ特有の症状であっても、最初に家庭医を通すのが一般的な流れです。
整形外科で診断を受けると、必要に応じてX線やMRIの検査、そして理学療法(Physiotherapie)の処方が行われます。
理学療法は通常6回単位で処方され、延長したい場合は再度医師の診断を受ける必要があります。
Physiotherapie(理学療法)の実際
ドイツでスポーツのケガや慢性的な痛みを診てもらう際に、最も一般的なのが Physiotherapie(フィジオセラピー/理学療法) です。
医師の診断と処方箋に基づいて行われるため、治療目的がはっきりしており、日本の整骨院やリハビリに近い存在です。
主な施術内容
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Manuelle Therapie(徒手療法)
セラピストが手で筋肉や関節を動かし、可動域を改善します。肩や腰の硬さに有効。 -
Krankengymnastik(運動療法/リハビリ体操)
ストレッチや筋トレなど、自宅でも続けられる運動プログラムを指導してくれます。 -
Massage(医療マッサージ)
コリや血流改善を目的としたマッサージで、単なるリラクゼーションとは異なります。 -
Elektrotherapie/Ultraschall(電気治療・超音波療法)
炎症や痛みを和らげる物理療法。 -
Wärme-/Kälte-Therapie(温熱・冷却療法)
温めて筋肉をほぐしたり、冷却して炎症を抑える補助的な療法。
テニスプレイヤーに多いケース
- テニス肘(Ellenbogenentzündung) → 手技+ストレッチ指導
- 腰痛・背中の張り → マッサージ+体幹トレーニング
- 足首の捻挫 → 可動域改善+バランス強化
つまり、Physiotherapieは 治療と予防を兼ねたケア であり、症状を改善するだけでなく「再発防止」のための運動指導まで受けられるのが大きなメリットです。
スポーツケアの選択肢
理学療法以外にも、ドイツではさまざまな治療が受けられます。
例えば「Chiropraktik(カイロプラクティック)」「Akupunktur(鍼灸)」「Osteopathie(整体・徒手療法)」などは、慢性的な腰痛や関節トラブルで利用する人も多いです。
ただし、これらは保険適用外になることが多く、自費診療(Privatleistung)としての支払いが必要です。
施術費用は1回あたり40〜80ユーロ前後が目安で、日本と比べてもやや高めです。
Chiropraktik(カイロプラクティック)
ドイツでよく利用されるケアのひとつが「カイロプラクティック」です。
施術者が背骨や関節の歪みを手技で整えることで、神経や筋肉の働きを改善するという考え方に基づいています。
短時間で「ボキッ」と音を伴う矯正を行うこともあり、急性の首・腰の痛みや頭痛などに対して即効性を感じられるケースもあります。
ただし根本治療というより「バランスを整える」目的が強いため、継続的なケアが必要になることもあります。
公的保険(Krankenkasse)ではカバーされないことが多く、自費診療(40〜80ユーロ/回)が基本です。
Akupunktur(鍼灸)
東洋医学にルーツを持つ「鍼灸」も、ドイツでは慢性腰痛や肩こり、テニス肘の治療に広く利用されています。
細い鍼をツボに刺すことで体内のエネルギーバランスを整え、痛みの軽減やリラクゼーション効果を狙います。
施術中は意外とリラックスできる雰囲気で、眠ってしまう人も少なくありません。
慢性的な腰痛や膝関節の痛みといった条件を満たす場合は、公的保険でカバーされるケースもあります。
ストレス緩和や睡眠の質改善にも効果があるとされ、テニス選手の間でも人気があります。
Osteopathie(オステオパシー/整体・徒手療法)
オステオパシーは「全身はつながっている」という考えのもと、骨格や筋肉、内臓、神経などを手技で調整する療法です。
マッサージやストレッチに似ていますが、より根本的に「なぜその部位が痛むのか」という原因にアプローチする点が特徴です。
たとえば腰痛でも、実際の原因が股関節や姿勢にあると判断されることがあります。
ソフトタッチから強めの徒手療法まで幅広く、慢性的な不調を抱える人に人気があります。
こちらも公的保険では原則カバー外ですが、一部の Krankenkasse が補助をしてくれることもあります。
まとめると…
Physiotherapie:医師の処方必須。治療+リハビリ+予防。公的保険でカバーされる。
Chiropraktik:関節矯正で即効性。保険外が多い。
Akupunktur:東洋医学。慢性痛やリラクゼーション。条件次第で保険カバー。
Osteopathie:全身のつながり重視。慢性不調に。保険は部分的に補助される場合あり。
テニスでのケガと保険のカバー範囲
捻挫や腰痛、テニス肘といった一般的なケガは、公的医療保険に加入していれば基本的にカバーされます。
ただし「予防目的」のトレーニングやマッサージは自己負担になるケースが多く、ここが日本と異なるポイントです。
また、理学療法を受ける際には「医師の処方箋」が必須であり、いきなり理学療法院に行っても治療は受けられません。
このあたりも最初は戸惑いやすい部分です。
スポーツ保険は必要か?
テニスクラブ(Verein)に所属している場合、会費の中に基本的な傷害保険が含まれているケースがあります。
例えば、クラブ対抗戦(Medenspiel)や練習試合中にケガをした場合、その範囲で保険が適用されることがあります。
ただし、細かい条件はクラブごとに異なるため、入会時に確認しておくと安心です。
一方で、個人でトーナメントに出場したり、遠征が多かったりする場合は、追加で「Unfallversicherung(傷害保険)」に加入する価値があります。
Unfallversicherungでは例えば以下のような補償が受けられます。
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試合や練習中の骨折・捻挫などによる治療費の補填
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後遺障害が残った場合の補償金
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入院・通院に伴う追加費用のカバー
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長期間仕事に復帰できない場合の生活補償
公的保険ではカバーしきれない「事故後の経済的ダメージ」に備えられるのが大きなメリットです。
特に遠征や海外トーナメントに出場する人には心強い保険といえるでしょう。
医療を受けるときの実務的な流れ
私が実際に動いた流れをまとめると、まずは腰痛が悪化したタイミングでHausarztに行き、紹介状をもらって整形外科へ。
そこで診断と処方箋を受け、Physiotherapieに通いました。
診察時には保険証(Versichertenkarte)が必須で、これを忘れると治療が進まないので要注意です。
Physiotherapieは保険が適用される一方で、マッサージやストレッチなど「リラクゼーション目的」の施術はカバーされません。
そのため普段のケアは自分で行い、試合前などコンディションの調整をしたい場合は、自費でカイロプラクティスの施術をお願いするようにしています。

まとめ
ドイツの医療制度は「保険に入っていれば最低限は安心できる」仕組みになっています。
ただし日本の感覚と異なり、紹介状が必要だったり、予防目的のケアは自己負担になったりと独特のルールも多いです。
さらに整体・カイロプラクティック・鍼灸など幅広い治療を受けられますが、これらはほとんどが自費診療である点には注意が必要です。
スポーツ保険についても、クラブを通じた基本的な補償に加えて、Unfallversicherungで事故や後遺障害に備えておくと安心感が増します。
テニスは長く続けたいスポーツだからこそ、ケガをしても安心して治療・リハビリが受けられる体制を整えておくことが大切ですね。