ヨーロッパでテニスをしていて、現地のプレイヤーとダブルスを組んだときに「なんかやりにくいな」と感じたことはないでしょうか。
前回の記事で触れた通り、ドイツでは「シングルス人気」が根強く、練習も試合もシングルス中心で回ることが多いです。
今回はその延長として、「ドイツ人はなぜダブルスが苦手なのか?」について、文化や練習スタイルの違いから掘り下げてみたいと思います。
目次
ドイツのテニス文化はシングルス重視
ドイツでテニスといえば、やはりボリス・ベッカーやシュテフィ・グラフといったシングルスのレジェンドたちの存在が大きいです。
国民的スターもシングルスで輝いた選手が多いため、「テニス=個人競技」という意識が自然と強く根付いています。
クラブでもその傾向は同じで、練習はシングルス前提で組まれることがほとんどです。
クロスラリー、サーブ・リターン、ゲーム形式など、どれも「1対1」を想定したメニューばかり。
ダブルスの動き方や作戦を体系的に学ぶ機会はほとんどなく、「シングルスができれば十分」という文化的な空気が漂っています。
コート数の違いが生む「余裕」
「シングルスが花形」という考え方は日本でも同じかと思いますが、日本とドイツを比べて大きく違うのはコート数です。
日本はそもそもテニスコートが少なく、限られたコートを参加者全員で回そうとすると自然とダブルスが中心になります。
そのため「ダブルス文化」が育ちやすい環境といえるでしょう。
一方でドイツのクラブには10面前後のコートが備わっているところも珍しくありません。
実際、私が所属しているDoggenburgでは、チーム練習に8名集まっても追加でコートを確保して3〜4面を使い、シングルス練習を回していきます。
環境的に「わざわざダブルスをしなくても十分に練習できる」という余裕があるわけです。
結果として、ダブルスを学ぶ必然性が薄れ、経験値の差につながっています。
練習スタイルに表れるダブルスの弱点
ドイツ人のアマチュアプレイヤーの練習を見ていて一番驚いたのは、ボレー練習をほとんどしないことです。
LKが高い上級者は別ですが、一般プレイヤーほどウォーミングアップでのボレーボレーもなければ、ボレー対ストローク(ボレスト)を避ける選手も多い。
試合前のアップでもボレーをほとんど打たない人も珍しくありません。
とにかくストロークが好きで、ボレーが嫌い。そんな印象すら受けます。
その結果、試合になると前衛が全く動かない。
ポーチに出ない。並行陣になることもない。
サーブもシングルスと同じ立ち位置から打ち、展開を工夫しない。
要するに「ダブルスをシングルスの延長」としか捉えていないわけです。

実体験から感じた「やりにくさ」
実際にドイツ人とダブルスを組んでいて困ったのは、まず作戦会議がないこと。
そもそもダブルスの戦術を知らないのが大きいかもしれませんが、ポイントの前にどう動くか話さないのでリズムを合わせにくい。
さらにペアのサーブに大きな偏りがあり、ファーストは全力で打つけれど、セカンドは入れるだけ。
ファーストサーブが入らなかった瞬間に主導権を相手に譲っているようなもの。
さらにはそのゆるゆるセカンドサーブでさえもダブルフォルトを繰り返す人も多く、そもそも試合にならないことすらあります。
「練習していないことは上達しない」という当たり前の事実を、ダブルスでは痛感します。
ボレーを打たない人が前衛に立っても、当然プレッシャーはかからない。
ポーチのタイミングも掴めない。結果的にストローク合戦の延長になり、「ダブルスなのにシングルス2対2」のような試合展開になるのです。
国民性が影響している?
もちろん個人差はありますが、国民性も関係していると感じます。
ドイツ人は基本的に個人主義が強く、「自分の役割はここまで」という線引きをしがちです。
テニスにおいてもその傾向が表れていて、相手やペアと“呼吸を合わせる”ことに苦手意識があるように見えます。
また、ストロークでも顕著ですが、とにかくフィジカル頼みでパワーテニスに寄りがちです。
繊細なタッチや駆け引きを伴うショットが苦手で、ドロップボレーやタッチボレーはほとんど見かけません。
だからこそ、日本の「連携文化」との対比が際立ちます。
日本人は声を掛け合いながら役割を柔軟に変えていくのが自然にできるので、ダブルス適性が高いのかもしれません。
改善の余地と工夫 ― ダブルスを武器
とはいえ、「ダブルスが苦手」というのは裏を返せば伸びしろが大きいということでもあります。
私がよくやるのは、ペアに「次はファーストサーブをコントロールして入れて」と頼み、自分がポーチで仕留める形を作ることです。
一度成功すれば相手も「こうすれば簡単にポイントが取れるのか」と理解してくれ、少しずつ意識が変わります。
また、練習の最初に必ずボレーボレーを入れるよう提案するだけでも違います。
最初は嫌そうにしていても、やってみるとラリーが続き、次第に楽しめるようになる。
そこから「ダブルスらしい展開」が少しずつ生まれていきます。
要は、経験と成功体験を与えれば改善できる余地が十分にあるのです。
そして重要なのは、多くのチームがダブルスを苦手としているからこそ、逆にダブルスを武器にできれば団体戦で大きなアドバンテージになるという点です。
シングルスでは互角でも、最後のダブルスをきっちり勝ち切れるチームは想像以上に少ない。こ
こを強化できれば、昇格争いや接戦で勝敗を分ける決定打になるはずです。
Medenspielでのダブルスの重要性
ドイツのリーグ戦(Medenspiel)では、ダブルスは「試合数が少ないから重要性が低い」と思われがちですが、実際には勝敗を大きく左右する最後の砦です。
特に4人制のチーム戦では、その重要性がはっきり表れます。
たとえばシングルス4試合とダブルス2試合で編成される場合、3勝3敗で並ぶケースは珍しくありません。
その場合は「獲得セット数」や「獲得ゲーム数」で勝敗が決まります。
それでも同数だった場合、なんとダブルス1を勝ったチームが勝利とルールで定められているのです。
実際に私が新しく所属することになったDoggenburg Herren30のチームも、昨シーズンの最終戦でこのルールに泣かされたそうです。
全勝同士で迎えた最終戦、最終的に3勝3敗で獲得ゲーム数も並んだものの、ダブルス1を落としたことで昇格のチャンスを逃してしまったのです。
これは偶然ではなく、テニス協会自体が「ダブルスももっと重視してほしい」というメッセージを込めているのではないか、とすら感じます。
まとめ
「ドイツ人はダブルスが苦手」というのは単なる偏見ではなく、文化・環境・練習スタイルが積み重なった必然の結果です。
シングルス重視の文化、コート数に余裕がある環境、そしてボレーを避ける練習スタイル。そこに個人主義的な国民性が加わり、「ダブルスにならない」状況が生まれています。
ただし、それは裏を返せば大きなチャンスでもあります。
多くのチームが苦手にしているからこそ、逆にダブルスを強みにできれば団体戦で一気に有利になる。
そしてMedenspielのルールを見ても、最後の勝敗を決めるのはダブルスであることが多いのです。
シングルス文化の国ドイツで、いかにダブルスを成立させるか。
そこにチームとしての成長と勝利のカギが隠されているのではないでしょうか。