「イギリス=ウィンブルドン=芝の国」というイメージを持つ人は多いと思います。
けれど実際はそのイメージと少し異なります。
これからイギリスへ移住し、現地でテニスを続けたい方に向けて、コート環境・クラブの仕組み・試合制度・年齢別の競技環境までを整理しました。
私は普段ドイツでプレーしているので、「ここはドイツと違う」といった比較も併せて紹介していきます。
目次
テニスコート事情:人工芝が主流
イギリスで最も多いのは人工芝(Astro Turf)です。
雨の多い気候でも使いやすい全天候型のコートで、日本のオムニコートに近い存在。
バウンドは低めでボールが滑りやすく、最初は戸惑うかもしれません。
芝コートはウィンブルドンのイメージがありますが、実際に一般プレイヤーが日常的に利用できるのはごく限られたクラブ、しかも短い夏の期間だけ。
クレーはほとんどなく、ハードコートは一部のクラブや公共施設で見られる程度です。

クラブの仕組み:社交も競技も両立
イギリスでもテニスをするならクラブに所属するのが基本です。
年会費制のMembershipが一般的で、クラブに入ることで練習会や交流イベント、リーグ戦に参加できます。
-
都市部のクラブ:設備が整い、イベントや大会も豊富。
-
地方のクラブ:規模は小さいがアットホームで、社交の場としての色が濃い。
さらに「Pay as you play(その都度払い)」という仕組みもあり、非会員でも利用できる施設があるのは特徴的です。
短期滞在者やライトユーザーにはありがたい仕組みですね。
ドイツのクラブは「リーグ戦に出るのが前提」という雰囲気がありますが、イギリスは「試合に出てもいいし、出なくてもいい。楽しむだけでもOK」という自由度が高い印象です。
試合・大会システム:RatingとRanking
イギリスでは、個人の実力や大会成績はRating(レーティング)とRanking(ランキング)で管理されています。
-
Rating(実力指標)
以前は10.2〜1.1までの段階で表されていましたが、現在はITF World Tennis Number(WTN)が導入されています。-
数字は40(初心者)〜1(プロ級)。
-
シングルスとダブルスで別に評価される。
-
勝敗だけでなくスコア内容も反映され、毎週更新される。
-
-
Ranking(全国順位)
大会の成績に応じてポイントが付与され、過去52週分で順位が決まります。-
シングルスは直近6大会、ダブルスはその25%分が加算対象。
-
LTAが定めるGrade 1〜5の公式大会がポイント対象。
-
年齢ごとにランキングが区分されており、ジュニア(例:14歳以下)からシニア(35+, 40+, …90+まで)まで、それぞれの世代ごとに順位が存在する。
-
ドイツのLKは世代に関係なく共通ですが、イギリスは「世代ごとのランキング」が整っているのが大きな違いです。つまり、年齢を重ねても「自分の世代の中で競う」舞台が必ず用意されています。
年齢別カテゴリー
イギリスのランキングや大会は子供から大人まで参加することができ、生涯スポーツとして続けることが可能です。
-
ジュニアは「9歳以下」「10歳以下」「12歳以下」…と細かく区分。
-
大人はオープン(全年齢対象)に出場できます。
-
さらに30+, 35+, 40+, … 90+までのシニア年代別カテゴリーがあり、自分の年代で正々堂々と競えます。
例えば40歳の人なら
-
オープンランキングで若手とも一緒に順位付けされる。
-
40+の年代別ランキングにも同時に載る。
この仕組みによって「年齢=引退」ではなく「年齢=新しいカテゴリーでの挑戦」になるのです。
ドイツ同様、イギリスでも“生涯プレーヤー”としてテニスを続けられる文化があり、40代・50代以降も競技を楽しんでいる人は多いです。イギリスは社交的なテニスも盛んですが、決して「若者だけが競技者」という国ではありません。
実際の大会参加ステップ(大人の場合)
step
1① Grade 7・6(ローカル/エントリーしやすい大会)
-
クラブ内リーグ(Box League)や、地域のオープンな草トーナメント。
-
いわゆる「気軽に出られる」レベルで、参加条件もゆるい。
-
まずはここで数試合してWTN(レーティング)を動かすのがおすすめ。
Box Leagueとは
イギリスのクラブでは、希望者だけが参加できるBox League(ボックスリーグ)という仕組みがあります。
会員をレベル別の小グループ(ボックス)に分け、数週間〜数か月かけて総当たり戦を行う形式です。
試合の結果はLTAのシステムに反映されるため、WTN(レーティング)の算出にも役立ちます。
ただし参加者はクラブ全体の一部に限られ、規模は「10〜数十人程度」が一般的。
ドイツのMedenspielのように全員が出場するわけではなく、やる気のある人が自主的に腕試しする場といった位置づけです。
step
2② Grade 5(地域大会/競技性が上がる)
-
LTAが定めるRanking対象の最下層。
-
クラブ所属選手や、競技志向の一般プレイヤーが集まる。
-
成績がRanking(全国順位)に反映されるので、ここからは「順位付け」が始まります。
「ちょっと本格的に競技をしたい」と思ったらこのグレードに挑戦。
step
3③ Grade 4〜3(広域大会・強豪が多い)
-
郡(County)や複数地域の強豪が集まる。
-
試合数も多く、レベルはかなり高い。
-
真剣に競技を続けたい人や、ランキングを本気で上げたい人が出場。
このあたりから「毎週末は試合漬け」という生活もあり得ます。
step
4④ Grade 2〜1(全国大会・トップレベル)
-
国内トップレベルが集まる。
-
プロを目指すジュニアや大学トップ層、シニアのナショナル代表候補もここで戦う。
-
移住者がいきなりここを目指す必要はまずありません。
推奨する流れ
-
最初の半年〜1年:Grade 7・6でプレー → WTNをつけて、自分の「実力の数字」を把握する。
-
次のステップ:Grade 5に挑戦 → Rankingをつけて全国順位に入る。
-
本気で競技志向なら:Grade 4以上へ挑戦。
「まずはGrade 7から始めるのが現実的」。ここで数試合するとWTNが付くので、以降は「同じレベル同士」でマッチングされやすくなり、無理なくステップアップできます。
草トーナメントや相手探し
イギリスにもローカル大会や草トーが数多くあり、LTAの公式ページから検索・エントリーが可能です。
ユニークな例としては「Play Your Way to Wimbledon」という全国的なイベントがあり、勝ち進めば本物の芝コートで試合ができます。

また相手探しには「RacketPal」などのアプリや、LTA主催の「Local Tennis Leagues」が便利です。
自分のWTNに近い相手とマッチングされ、定期的に試合が組まれる仕組みがあります。

まとめ
イギリスでテニスを始めるなら
-
人工芝コートに慣れる必要がある。
-
クラブ所属は基本だが、ソーシャル重視でも競技重視でも楽しめる。
-
RatingとRankingの二本立てを理解しておくと安心。
-
年齢別カテゴリーが整っているので、若者だけでなく大人もシニアも競技を続けられる環境がある。
-
相手探しはアプリやローカルリーグが便利。
ドイツが「クラブでチーム戦ありき」の文化なら、イギリスは「社交と競技の両輪」。
どちらを選ぶかは自分次第。
移住前にこの違いを知っておけば、きっと現地でのテニスライフをスムーズに始められるはずです。